
ミャンマーの旧都、ヤンゴンの市場「ボーヂョーアウンサン マーケット」辺りを散歩していると、1人の少女がこちらに向かって歩いてきた。
黒く健康的なショートヘアーに、クリクリっとした大きな目。頬には「タナカ」というミャンマー地方にある木で作られた天然の日焼け止めをあしらっている。対照的に、身につけている少し大きめでヨレヨレの衣服は、お世辞にも上等とは言えなかった。それでも、彼女の雰囲気は人を惹きつける力があった。
少女はカバンの中から扇子を取り出し
「ニホンジンデスカ?センスカッテクダサイ」
と、流暢な日本語で話しかけてきた。少女のあまりに上手い日本語にびっくりし、目を丸くしていると
「カウ?」
と聞いてきた。あいにく荷物になるのが嫌だったので
「扇子は要らないけど、あなたの日本語に感心したからチップをあげる」
と財布からお金を出し、少女にお金を渡そうとした。すると、彼女は情けは無用とばかりに、一切受け取らない。それだけは、商人としての矜持が許さないと、彼女の大きな瞳が物語っていた。
僕は少女の面子を潰してしまった事に気付き、いたたまれない気持ちでいた。すると、彼女は次に、カバンの中から絵葉書を1枚取り出した。
「カウ?」
僕はそれを買うことにした。
彼女は、お金を受け取り、自分の財布にしまう。それはまるで、何十年もこの商売をしているかのような、大人の仕草だった。
「ありがとう。」
僕が言うと、彼女の笑顔は一転、可愛いらしい少女のそれになった。取引が成立すると、少女はまた他のお客さんを求め、歩いていってしまった。
帰りの飛行機でふと、少女から購入した絵葉書を取り出してみた。
絵葉書に写っているミャンマーの風景を眺めていると、
「アナタモ、シゴト、ガンバレヨ」
あの少女がふっと出てきて励まされた気がした。